nero’s PARENT
こいつは
フラッグシップになる。
その直感がはじまり。
特徴的なペン先、12角形の低重心グリップ、精密に加工されたローレット、そして漆黒のボディ。ぺんてるシャープペンの最高峰・オレンズネロ。そのフォルムの育ての親となった柴田が、はじめてネロの姿を思い描いたのは2015年冬のこと。
「『自分たちが持つ技術のすべてを注ぎ込んだ、シャープペンを作りたい』。そんな技術陣の想いが、ネロをめぐるプロジェクトのはじまりでした。当時の技術陣の熱量は相当なもので、私が彼らのもとを訪れた時には、すでにその技術が組み込まれた試作品がありました。30を超える部品で構成された、ネロのプロトタイプ。実際に試し書きをした後、『こいつはフラッグシップになる』と直感したことを覚えています。そして、『最高』にふさわしいデザインが求められている、とも」
0.2の極細芯でさえ、折れずに連続筆記できる──。それは、半世紀以上シャープペンを作り続けてきたぺんてるにとって、ひとつの到達点。だからこそ、脈々と受け継がれてきたDNAを体現するデザインを思い描いたという。
「通常はいくつものデザイン案を検討するのですが、ネロの場合は早い段階でデザインの方向性が定まりました。色は、グラフ1000やスマッシュの系譜に連なるシボ調のマットブラック。本体はメカニカやP205と同様の12角形。ネロには、ぺんてるの高性能シャープペンが培ってきたアイデンティティを受け継がせたかったのです。見た目の高級さや珍しいギミックではなく、『書く』ための機能を極限まで突き詰めること。それが、こいつの存在理由なのだと思います」
ノック、グリップ、
ペン先。
理由だけが、形を作る。
「書く」という機能に特化し、余計な部分は削ぎ落とす。ネロのソリッドなフォルムは、すべてに意味がある。たとえば、ノックやロゴ表示部にもその思想が垣間見える。
「ノックして芯を出すという行為は、シャープペンの不便さのひとつ。自動芯出し機構による連続筆記は、この“負”の部分を克服する技術です。ネロの場合、ノックを押すのは先端のパイプを出す時としまう時の2回だけ。喩えるなら、侍が刀を抜き、鞘にしまうようなイメージです。ネロのこうした特長を表現するためにも、ノックの大きさは最小限に抑えています。また、ネロの顔とも言うべきロゴ表示部は、切り取ったような凹面形状にすることで、全体のフォルムを損なうことなくネロの存在感を伝えています。凹んでいるので、表示部が擦れにくいことも利点となっています。ほら、ネロらしい良い顔でしょう(笑)」
緻密な描画を実現する0.2の芯径。操作性と安定性を備えた細身の軸、視認性を追求したペン先形状。ネロを形づくるデザインエレメントに、理由のないものはない。
ネロが走り出す。
低重心グリップ。
ネロを手に取り、紙の上に走らせてみる。驚くほど軽く、滑らかな動き。細い線が縦横無尽に紙上を駆け回り、まるで自分の指で書いているような感覚を覚える。この独特の書き味を支えるのが、低重心グリップだ。
「極細の筆記線を軽い筆圧で書き続けられることが、ネロの大きな特長。グリップを低重心にすることで安定性が増し、ネロが自重で走ってくれるのです。グリップ部分となる前軸に樹脂と金属粉を混ぜた素材を用いることで、連続筆記に最適な重心バランスを追求しました。こいつは『書く』という行為に特化したフラッグシップ。時速300kmのスピードで走ることのできるスーパーカーが時速100kmでゆったりと流しているような感覚が、ネロにはあるのです」
かっこよさの
先にあるものを
ネロは背負っている。
ネロには力強い存在感と機能美がある。けれど、柴田が追い求めたのは、「かっこよさ」ではないという。
「ネロを『かっこいい』と言ってもらえることは、プロダクトデザイナーとしてとてもうれしいことです。ただ、私は『かっこいい』ものを作りたかったわけじゃない。ネロはもっと大きなものを背負っているのだと思うのです。信頼性のあるぺんてるシャープペンのアイデンティティを継承し、『書く』ための最高峰であること。それが、ネロのデザインに託した想い。ネロには、現時点の私たちができる最高の『書く』技術が詰め込まれています。この先、なにか飛躍的なイノベーションが起きない限り、ネロはシャープペンシルのフラッグシップであり続ける。私はその姿を、しっかり見届けたいと思います」